【自爆ボタンの定義】
自爆とは、自らの意思決定により「自らの生命、資材」を犠牲にして目的を果たす行為である。
自爆にも様々な種類があり、「自爆ボタン」とは、下記の操作を行う起動装置である。
ボヤッキーの自爆ボタンの謎
自爆ボタンといえば、「ヤッターマン」でド派手な色彩でドクロマークの付いた、あのボタンを想像する人が多いと思う。
しかし、ボヤッキーが正常な目的で自爆ボタンを押すことはなかった。
ボヤッキーが自爆ボタンが押した理由は全て事故である。
【珍しくヤッターマンを追い詰めるドロンボー一味】
ヤッターマンは敗北寸前である
「これでヤッターマンもお終いだと思うと寂しいねぇ。」
ヤッターマンを憐れむ余裕のドロンジョ
「ボヤッキー、やっておしまい」
「アラホラサッサー」
「ポチっとな」
「あら、ドロンジョ様。間違えて自爆ボタンを押しちゃいました」
「このスカポンターン」
~~ちゅどーん~~~(大爆発)
このシーンが流れると、全国のちびっ子や女子高生たちはブラウン管TVを揺さぶりながら「なんでやねん あほか」とツッコミを入れていた
この自爆ボタンには多くの謎がある
✔何故、押しやすい位置にあるのか
✔何故、押しやすそうなボタンなのか
✔何故、誤操作防止をしていないのか
そもそもボヤッキーは何の目的があって自爆ボタンを作ったのだろう。
まず、攻撃ボタンの横に置いてはいけない。
横に置くなら、同時押しボタンするか、キーロックとの2段階スィッチ、カバーでマスキングする等、誤操作の予防処置をすべきだ。
また、何回も同じミスをするなら時限式にするか解除ボタンを同時に設ける必要がある。
さらに、ドロンジョやトンズラーが間違って押すのはわかるが、ドクロマークでわざわざ注意喚起をしているボタンを、設計をしたボヤッキーが押すのは納得できない。
以上から推測されることは、ボヤッキーの自爆ボタンは意図的に誤操作を誘発したと見せかける設計がされており、万が一でも勝たないようにしていたのだ。
負けの美学
自爆ボタンやボヤッキーに男のロマンを感じるのは、私だけではないはずだ。
それは1通のメールから始まった
コロナ禍で、売り上げの下がった下請け企業への救済処置でOEM(生産の一部を下請け会社に委託する)を決定した。以下メンバーは〇〇は〇月〇日に事前確認として下請け工場の監査をすること」
部門長の名前が連なる中、メンバーに私の名前があった。
私はこの下請け企業を訪問するのは初めてだった
本来、OEM事業の立ち上げの監査は、私のような下っ端の工程管理者が立ち会うことはない。少なくとも会社の意思決定権を持った3階級上の部長や役員の仕事であり、直属の生産部長やリーダーを飛び越して私に来るのは不自然だ。
監査は5日後で急である。メールには資料もチェックシートも添付されておらず、事前の打ち合わせ会議もない。上司に詳細を聞いても「現場確認ですぐ終わるから大丈夫」としかアドバイスをもらえなかった。
嫌な予感がした。
下請け工場を監査
監査当日、下請け工場の作業場に入ったときに嫌な予感が的中した。
作業場には20~30代の若い従業員が数名と、60代ぐらいの初老の作業者が待っていた。
<会社の作業場と環境が大きく違う>
✔クリーンルームになっていない。
✔作業場は窓を開けて換気をしている
✔設備が古く汚い
正直、ここまでは下請けの町工場ではしかたないとは思った。委託する仕事は最終工程の箱詰め作業であるため、品質に大きく影響するところではない。設備にお金を掛けれないのは理解はできる。
しかし、以下の内容は理解できない。
<それはファッションなのか?>
✔ネットから髪の毛がはみ出してスネ夫状態の従業員
✔挨拶を一切しない従業員
✔回転体を扱う設備に工具類が散乱
✔製品が床に直置き
案内をしたのはこの下請け工場の部長で30代の若い人だった。なんでも工場長の息子らしい。
お客さんが来るなら、最低でも見えるところは綺麗にしておくものだ。
監査でちゃんとしていないところを1回でも見られたら、いつもやっていないと判断される。たまたま、偶然の言い訳は一切通じない。そんな緊張感は無いのだろうか。
監査は設備調整から始まった
そこから始めたら、時間が掛かってしかたない。せめて設備を動かすところから始めてほしかった。
しかも、調整するのは、初老の作業員たった1人
技術者レベルの高い人ではあったが、久しぶりに装置を取り扱うらしく、準備の段階で「どないしたらええんでっしゃろ」と何回も聞かれた
設備を動かす前にダラダラと時間が経過していた、若い従業員のスネ夫達は手伝いもせず、ボーッと立ち尽くしている。
品証部長や営業部長はすでに別の話をして、購買部長は電話を掛けると言って戻ってこない。
監査がグダグダの雰囲気になっていた。
しかたがないので、私が下請け工場の部長に手順書の説明をしていたが、質問される内容は、資料を見てたらわかることばかり。
責任者が事前に資料を読んでないのはどういうこと?
そんなことより、あのおじいちゃん一人で作業して可哀そうだから、誰か手伝ってやってよと何度も思った。
1時間30分後、やっと装置のセッティングが終わって始動した。
品証部長と営業部長は準備に時間が掛かり過ぎたために、別の用事があるからと先に帰ってしまった。品証が途中で帰るってそんなことあるの?と思ったが、残った購買部長と私が最後まで監査することにした。
試験運転でトラブルが発生
機械で溶液を規定量に瓶詰めにして測量検知器でOKが出れば終わりである。設備が稼働すれば自動運転なので、やっと終わるれると思っていたら、測量検知器のブザーが鳴って止まってしまった。
容量が規定値より3%も足りない数値でエラーになっている。
下請けの部長は「せっかくやったのに、これは不具合品でしたね。次のやつをしましょうか?」と提案してきた。
私はおかしいと感じた。工場で検査に合格した規定量の溶液を別容器に移し替えるだけである。充填時に多少の漏れはあるが、3%も足りなくなるのはありえない。
測量検知器の不具合が疑われた。私は下請けの部長に問い合わせた
「検知器の校正や点検はいつやりましたか?」
「検知器は購入して1年以内なので校正は不要です」
「では、定期点検はしているのですか?」
「最近しました」
これ以上の押し問答をしても無駄だと思い、購買部長にこのサンプル品をうちの測量検知器で再計量したいので持ち帰って良いかと提案した。
これがエラーになると、委託するうちの製品の40%以上が不合格になってしまう。購買部長も同じ考えだったらしく同意してくれた。
<購買部長>
「部長さんがおっしゃる通り、定期点検はちゃんとされていると思います。それとは別にうちの計量との誤差の確認したいので持ち帰らせて下さい」
<下請け部長>
「どうぞご自由に。その間は保留ですか?」
<私>
「再計量はすぐにいたします」
結果、再計量したらやはり合格品であった。下請け工場の測量検知器に異常があり、容量が規定値入っている合格品を不具合判定にしていたのだ。
下請けで問題が発生したと判断され、委託は一時保留となった。
下請け工場からの再挑戦
それから数日後、監査メンバーが再度呼び出された。
下請け工場は、もう一度チャンスがほしいと訴えたようだ。就業中に電話が掛かってきて、私も下請け工場に出向した。
「まるで下町ロケット」のような構図である。大手企業が町工場を罠にはめて新規事業を妨害する。町工場は窮地においこまれるが、社長と従業員が一致団結して苦難を乗り越え、夢を実現させる。そんな風景が思い浮かんだ。
私は意図的に妨害をした訳では無いが、あの後に保留の決定が出た時は胸が痛んだ。問題を解決する手段として、私の取った行動がベストだったのだろうか。お互いが不幸にならなくて済む、別の方法があったのかもしれないと自責の念を抱いていた。
今度は無事にクリアしてもらって、みんなが笑顔になれるようにしてほしいと願った。
2回目の監査では下請けの社長が出てくると予想したが、前回と同様に、社長の息子の部長が出てきた。「前回は不慣れな作業員がやったので問題がありました」
えぇ・・あの1人で頑張っていたベテランのせいにする気なの?
ドリフ・ザ・カムトゥルー
それでは始めます
今回は、設備が動くところから始まった。
ウィィィン~~順調に動いている。
・・・大丈夫か
またもや同様のエラー! ブザーが鳴り響く
<下請け部長>
「あれっ!? おかしいな?」
いいかげんしろよ
呼びつけておいて同じエラーを再発させるなんて信じられない。
なんで解決してないんだよ。こっちは今回の結果が良けりゃ、前回は無かったことにするつもりだったんだぞ。本当に何やってんだ。
私は前職で下請け町工場の品質保証の責任者であり、このような修羅場は何度も経験している。監査で設備の異常を指摘された際、その場は何とか取り繕ってチャンスをもらい、「次の失敗は許されない。従業員の生活が懸かっている」との決死の覚悟で、OKが出るまで設備担当と徹夜で調整したものだ。
そんな努力もしてないのか?
更に原因が判明しているにも関わらず、責任者が「従業員の習熟度が低かった」と言い訳するのは禁じ手である。私も最後の最後でしか使わなかった。
コロナ禍では下請事業を自社に戻しているところも多い。仕事が無くなっていく下請けが多い中、わさわざ救済処置をしてくれているのに。
監査時に1人で汗をかいて一生懸命にやっていた技術者の顔が浮かんだ。
そこまでやってこれなのか
私は表では冷静さを保っていたが、心の中は怒りで震えていた。
「測量検知器の点検記録と検査手順書を見せて下さい」
「あっ、それですか。どこにしまったかな」
出てくるのに時間が掛かるお約束のパターンだ
「すぐ出てくるところにないんですか?」
「探している間に、もう一度やらせてもらえませんか?」
泣きの一手が出てきた
営業部長や購買部長が助け舟を出した。
「もう一度やらせてみたらどうか」
やっと危機を感じたのか、下請けの部長は顔を紅潮させて汗びっしょりで従業員に激を飛ばしている。
「接地面を変えろ!感度を上げろ!」
現場が慌ただしくなり、今まで置物のようだったスネ夫達があちこち動き回りだした。
下請け部長は動揺を取り繕いながら、今度は大丈夫ですと運転ボタンを押した。
ギュルルルル~~~ギュルルルゥゥ~~~
ギュルルルル~~~ギュルルルゥゥ~~~
検知器に異音がした
キュル
キュル、キュル
キィ________
バキィバキィ
ボロン~~💥💥
「あっ」「あっ」「あっ」「あっ」
一同唖然としていた。
そんなことあるの?と誰もが思った。
ダメだこりゃ
その後の展開
私が決定したわけでは無いが、今回のOEM(委託事業)は白紙となった。
直属の上司にこれまでの経緯を報告すると「よくやった。行かせてよかった」と褒められた。
今回のOEM(委託事業)は副工場長の提案で、あの下請け企業の社長とは長年の付き合いでゴリ押してきたたらしい。生産部は今回のOEMは不適切であると感じていたが、断るだけの理由がなかったので、現場担当者を同行させたら多くの問題点を指摘できるのではないかと考えていたようだ。
今回の監査で感じた違和感はそれだったのか
私は慌てて上司に尋ねた。
「私は副工場長に盾突いたことになっているのですか?」
「お前、何かしたのか?」
「いえ、向こうが自爆しただけです。」
そう言うしかなかった。
自爆ボタンには男のロマンを感じるが、決して押してはいけない
今も昔も最悪の結果になるだけである
0 件のコメント:
コメントを投稿